新しい分子スター誕生 「自己集積」法で複雑な分子を簡単に作る

超分子化学の始まり

今回は新しい分子スター(実は星形の分子)が誕生したというお話しです。
さて皆さんは超分子が何かご存じでしょうか?超分子とはノーベル化学賞を1987年に受賞された(受賞時はまだ40代!!)Jean-Marie Lehn先生らによって提唱された概念です。

原子と原子が結合したものが分子ですが、分子と分子がゆるく結合したものが超分子です。分子と分子がきっちりつながったときは、単に大きな分子になるだけです。 そうではなくて『ゆるく(科学の言葉で言えば共有結合以外の弱い結合で)」結合することが重要です。

ゆるい結合なので比較的自由に結合したり離れたりすることができることが特徴で、生物の中のタンパク質や核酸など重要な物質はそれら同士が、あるいはそれらと別の物質がゆるく結合して超分子になることで重要な機能が現れることが多いのです 。今回ご紹介する 化合物は厳密には超分子ではないかもしれませんが、超分子科学の考え方を使って自在に作られてきたものです。

自己集積で正方形分子を作る

初期の超分子化学の分野では、環状の分子が多数合成されました。輪の中に何か物質を取り込んで貯蔵したり、反応させたり、分離したりさせることが考えられたのです 。たとえば、シクロデキストリンというかご形の分子は、その中に取り込んだ分子の劣化を防ぐ働きがあり、食品分野で多く使われています。

様々な形の環状分子が合成されてきましたが、正方形の分子はなかなかできませんでした。1990年に藤田誠先生(東京大学、1990年当時は千葉大学)は、巧妙な設計によって正方形の分子を初めて作ったのです[1]。パラジウムは4本の結合の腕を持っていますが、そのうち2本にはある分子を結合させておいて、残りの2本が直角に突き出た部品(図1の赤部品)を使います。それと、直線型に2つのパラジウムを結合させる化合物(青部品)を反応させて、正方形型分子が作られたのでした(図1)。

この反応の面白いところは、ジグザグにつながるなど必ずしも正方形にならないことも十分考えられるのに、正方形の分子が効率よく生成することです。パラジウムはまわりの分子との結合と切断が比較的自由に起こるので、ついたり離れたりをくり返していく内にもっともしっくりくる形である正方形に落ち着くのだと考えられます(図2参照)。

様々な組み立て分子の登場

この後、様々な形の分子が金属イオンを用いて作られるようになりました。たとえば先のLehn先生はさまざまな網目状分子を発表されました。図3に示すように棒状の分子の2箇所に金属と結合する部分を作っておけば、この分子4つと金属イオン4つを混ぜるだけで井桁型分子ができあがるというのです[2]

20年以上前にLehn先生の講演を伺ったとき、魔法のように次々といろいろな形の分子を作る様子を見せられびっくりしたことを覚えています。

また藤田先生は、3次元的な分子も発表されました。図4にはその一例を示しますが[3]、パラジウムを介して、3方向に金属と結合する部位を持つ分子をパネルのように組み立てて立体的な箱を作られたのです。さらにこの後もっと複雑で立体的な構造を持つ分子が多数作られていきました。これらは、たとえば目的の化合物のみこの中に取り込んで反応を行わせる触媒や、センサー、分子輸送など多彩な応用が考えられているのです。様々な部品を使うパズルのようで面白いと思いませんか?パラジウム以外の金属を使って立体的なポリマー構造を作る研究も非常な勢いで世界中で行われています。

分子スター

最後に本題ですが、ごく最近星形の分子が東工大の吉沢道人先生を含むグループによって開発されました。これは図 に示すように、パラジウムと、図1でも使われている直線型分子と、コの字型にパラジウムを結合させる分子を溶液中に混合することで、勝手に作られる分子です。これまで5角形を基本とする分子は作るのが困難とされていましたが、完全に直角のコの字ではなく、90度より少し広い角度を持つ分子を使うことで、このような形の分子ができるようになったのです[4]。この分子の作成方法は、今後多くの新しい分子を作成するためのガイドラインになるだろうと期待されています。

今回示した分子は 、どれも多段階の複雑な過程を経て合成されるものではなく、材料を溶液の中でかき混ぜるだけで求める形がひとりでに出来上がるというものです。その点では生物の成り立ちと似ています。

我々の体はDNAの情報に基づき、タンパク質を初めとする様々な分子が作られ、それが自己集積して出来上がったものです。タンパク質はアミノ酸がつながってできた鎖状の分子であることはご存じでしょうが、そうしてできたものがタンパク質としての機能、たとえば外界からの防御、酸素など重要な物質の運搬、細胞中での反応の促進などをはたすためには、タンパク質自身が弱い結合力によって特定の形に折り曲げられ、さらに必要に応じて別の分子と合体して体の中で機能を果たします。これは超分子が何段階にもわたって形成されて生物が成り立っていることを示しています。つまり我々は究極の超分子ともいえるのです。超分子の世界はとても奥が深いものです。それではまた次回お会いしましょう。

 

[1] http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00170a042
M. Fujita, J. Yazaki, K. Ogura
J.Am. Chem. Soc.1990112, pp 5645–5647
[2] https://www.nature.com/articles/378469a0
Fujita, D. Oguro, M. Miyazawa, H. Oka, K. Yamaguchi, and K. Ogura
Nature1995, 378, 469–471.
[3] http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/1997/cc/a706919g
P.N. W. Baxter,  J.-M. Lehn,   B. O. Kneisel and D. Fenske
Chem. Commun., 1997, 2231-2232.
[4]http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.201702264/abstract
S.Prusty, K. Yazaki, M. Yoshizawa, D. K. Chand, Chem. Eur. J.201723, 12456.

 

The following two tabs change content below.
坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。